日本ウィルソン病研究会

ごあいさつ (はじめに) 日本ウィルソン病研究会 顧問 東邦大学名誉学長 青木継稔

ウィルソン病は、遺伝性銅代謝異常症であり、常染色体劣性遺伝をする。遺伝性代謝疾患は何千種類もあるが、治療可能な疾患は極めて少ない。本症は治療可能な疾患であり、長期生存が可能である。本症は、数多い遺伝性疾患の中において稀有な疾患ではあるが、わが国において比較的多いとされ、出生約35000人〜40000人にひとりの頻度である。

ウィルソン病の概要は、「対象疾病・先天性代謝異常>大分類:金属代謝異常症・107:ウィルソン病(Wilson)」に、詳細な記載があるので参照にして欲しい。

ウィルソン病治療薬のD-ペニシラミン(商品名:メタルカプターゼ)は、我が国において1965(昭和40)年に認可市販された。しかし、重篤な副作用が世界各地より報告され、死亡する症例も数多かった。副作用は約25%に認められ、治療継続が困難となり、1972年、WalsheがD-ペニシラミンに代わる塩酸トリエンチン(トリエン)・銅キレート薬が有効であることを報告し、欧米諸国においては次々と認可された。わが国においては、Walsheの文献に従って数カ所の施設(有馬正高、青木継稔らの研究施設)にて「塩酸トリエンチンの生成と粉末化」が行われ、D-ペニシラミン不耐患者に対し、インフォームド・コンセント(説明と同意)の許に投与され、全国に配布されていた。

1990年、厚生労働省は「オーファンドラッグ法」を成立させ、遅ればせながら日本におけるオーファンドラッグ第1号として、「塩酸トリエンチン」を指定して「厚生労働省研究班(班長・有馬正高先生)」が発足した。しかし、ウィルソン病は稀有な疾患であり、青木らの全国調査により出生約35000人〜40000人に1人、年間30例前後の発生(当時の日本における患者数は1500〜1800人程度)と推定された。したがって、製薬メーカーとして収益が上がらないとの理由にて承知してくれない。「株式会社・ツムラ(漢方薬専門)」は、厚生労働省の応援と人助けの面からこの難題を引き受けてくれた。

この厚生労働省研究班は、ウィルソン病や銅代謝に関する研究者や臨床家が多く参加した。動物実験による催奇性、安全性、副作用や有効投与量設定などの基礎的研究、当時同時期に発見されたウィルソン病モデル動物モデル(LECラット・北大武市ら)による銅代謝や有効性等も研究された。さらに治験に多くの患者様が参加され、5年間の研究が行われた。

この間に、世界同時3研究施設において、1993年にメンケス(Menkes)病(銅欠乏を主とする遺伝性銅代謝異常症)の責任遺伝子(ATP-7A)が同定され、すぐにウィルソン病責任遺伝子(ATP-7B)が決定された。同時に、生体内銅代謝の詳細、ウィルソン病の病因・病態の解明が世界的研究により著しく進歩した時期であった。

わが国において厚生労働省は1997年に、オーファンドラッグ第1号として、塩酸トリエンチン(商品名:メタライトー250・ツムラ)が認可市販、保険適応になった。10年間の市販後調査が義務付けられ、D-ペニシラミン不耐患者に光明をもたらした。

「ウィルソン病研究会(日本ウィルソン病研究会)」は、この厚生労働省研究班の研究や臨床面の研究を目的として発足した。主な目的は、

  1. ウィルソン病やメンケス病を中心とした銅代謝異常の基礎的・臨床的研究を行う
  2. ウィルソン病の臨床像・発病様式が極めて多様性であり早期発見・早期治療の重要性
  3. 怠薬に関する問題
  4. 急性肝不全や肝移植の問題
  5. 治療薬の副作用の問題
  6. 神経型の対応
  7. 小児期早期発見例の諸問題
  8. 成人期発症例の問題
  9. 成人期への移行期の問題
  10. 消化器内科医・神経内科医・精神科への移行や連携の問題
  11. 治療薬の投与量・投与方法等・とくに銅キレート薬投与の空腹時投与徹底
  12. 銅摂取の問題
  13. ウィルソン病類似疾患の存在とその解明等

であった。

さらに、新しいウィルソン病治療薬として亜鉛薬(商品名:ノベルジン・ノーベルファーマ )の許認可、またTTM(テトラチオモリブデート)の治験など、ウィルソン病治療薬の幅が広がってきた。現在では、我国におけるウィルソン病患者様は、怠薬しない限り長期生存例が増加し、65歳以上の方も健在し通常生活を送っている。

日本ウィルソン病研究会の初代代表幹事に有馬正高先生が就任し、副代表幹事と事務局は青木継稔が担当し、事務局は東邦大学医療センター大橋病院小児科学教室に置いた。発足当初の会員数は500名以上であったが、現在は300名弱である。学術集会を毎年5月の第2あるいは第3土曜日として年1回東邦大学医療センター大森病院にて開催している。

研究会概要

名称 日本ウィルソン病研究会
代表幹事 清水 教一(西多摩療育支援センター)
顧問 青木継稔(日本ウィルソン病研究会 顧問 東邦大学名誉学長)
幹事 児玉浩子(帝京大学教授・帝京平成大学教授)
池田 修一(いけだ内科・脳神経内科クリニック)
乾 あやの(済生会横浜市東部病院)
児玉 浩子(平成帝京大学)
近藤 宏樹(近畿大学医学部奈良病院)
玉井 浩(大阪医科薬科大学LDセンター)
中村 公俊(熊本大学大学院生命科学研究部)
原田 大(産業医科大学)
藤澤 知雄(済生会横浜市東部病院)
松浦 晃洋(藤田医科大学)
道堯 浩二郎(今治第二病院)
監事 林 久男(愛知学院大学薬学部)
学術集会 年1回毎年5月第2または第3土曜日東邦大学医療センター大森病院にて開催
会員数
事務局 東邦大学医療センター大橋病院小児科
後援 株式会社ツムラ
株式会社ノーベルファーマ